山田耕作童謡100曲集

古井戸          三木露風 作詞

裏の古井戸 水が無い

   涸れた古井戸 さびしいな

 

こゝはお山の ふもとにて

   昔からある 古い家

 

桑の木青々 よく茂り

   むらさき色の 實がとれる

 

裏の古井戸 つるべ無し

   藪にはさがる 烏瓜

 

 

耕作百言

 一般に、謂ふ所の日本音楽は、歌詞と楽器との合奏であって

音楽は文学の付随物の観がある。即ち、其自身として独立する

ことの出来ない第二次的な音楽であり、更に換言すれば、日本

にあるのは劇音楽ばかりで、純音楽は存在してゐないといふこ

とになる。

 然らば純音楽とは何であるか。純音楽とは音楽自身で独立す

る音楽のことをいふ。これに反して、在来の邦楽の様に、歌詞と

並行してのみ存在し得る音楽は劇音楽と呼ばれてゐる。即ち楽

                               インスィデンタル

劇、歌劇に用ひられる音楽や、普通の劇中に用ひられる付随的

ミューズィック

音楽は勿論、凡て言葉と同行して行く音楽をいふのである。そん

なら言葉なしの音楽は凡て純音楽であらうかといふと、これも一

概にさうと断定することが出来ない。譬へば、邦曲六段である。

これは歌詞のない楽曲て゜あるから純音楽のやうに思はれてゐ

るが、その内容を厳密に吟味し、ことにその楽曲ょ運動化して見

ると、劇的動作の外何物も出て来ない。即ち六段は立派な劇的

音楽なのである。