山田耕作童謡100曲集

数え唄ですので長いですよ

  92    阿 蘭 陀 船   北原 白秋

  一つ、肥前の長崎に、和蘭陀船おらんだぶねが舞い込んだ 舞い込んだ 

 二つ、不思議な切支丹きりしたん伴天連尊者ばてれんそんじゃの御土産は 御土産は 

 三つ、御聖みくるすデウスさま、おん母マリヤの観世音かんぜおん 観世音 

 四つ、よい御子みこ、神の御子、洗禮せんれいなさるはヨハネさま ヨハネさま 

 五つ、イエスス・キリストス、南無なむ波羅葦曽善主麿はらみたぜんしゅまろ 善主麿 

 六つ、うまやのまぐさ桶、聖廟おはか猶太ゆだやのヱルサレム ヱルサレム

 七つ、南蠻なんばん瓜哇じゃわ過ぎて、呂宋るそん澳門あまかお、平戸灘 平戸灘 

 八つ、病にゃ蘭法醫らんぽうい解剖ふわけのお書物、麻酔薬ますいやく 麻酔薬

 九つ、コンダツ、顕微鏡、写真に油絵、砂時計 砂時計 

 十 、遠眼鏡ヱレキテル、幻燈に羅面琴らめいかオルゴオル オルゴオル

みんな揃へて、紅髭加比丹あかひげかぴたんが 紅髭加比丹が

ジャガタラくろんぼを喇叭らっぱで呼び集め

アララルラルラ   ホララルラル ラ

珍妙、珍妙、珍酡ちんだのお酒でひとをどり

アラ、 ラル、ラル ラ、  ホラ、 ラル、 ラル ラ

まづまづ一船ひとふねあけました

 

 

 

   耕作百言

 普通の人は「唄ふ」と云う観念に、より強く支配されて、肺臓の

存在を忘れ、即ち発声に必要なる諸器官の構成をも忘れ、徒に

喉によってのみ「唄はう」とする傾きがある。これは声楽の初習者

の陥る第一の陥穽である。